マイクロスコープ下での治療
顕微鏡とはなにか
マイクロスコープ(実体顕微鏡)を審査・診断だけでなく、治療にも用いることで、診断・処置のクオリティー、つまり治療の質である精密性、確実性を圧倒的に上げることができるのです。
マイクロスコープ下での治療の普及は歯の寿命を飛躍的に向上させます。しかし、顕微鏡歯科治療には手間と時間が必要です。
顕微鏡歯科治療に時間が必要なのは、決してゆっくり処置を行っているわけではなく、よく見えるが故に治療の範囲が圧倒的に増えるからなのです。ただし、治らない理由や治せない理由も見て確認できることが多いので、闇雲に治療を続けるということはなくなり、治療期間は短くなります。
このように顕微鏡を用いて、根管の中の治療をすることを総称してマイクロエンド(Microscope Endodontics)と呼んでいます。
マイクロエンドでできること
〇破折線(はせつせん)の確認
歯の抜歯理由で『むし歯』、『歯周病』に次いで3番目に多いのが『歯根破折(しこんはせつ)』です。放置していると腫れや噛んだ時の痛みだけでなく骨吸収を起こして次の処置が難しくなります。
レントゲンで『歯が割れているから抜歯です』と言われて納得できれば良いですが痛みがないことも多く抜歯の決断が難しいかもしれません。
我々歯科医師もなんとか歯を残したいという想いで診療しています。根管治療をしていても痛みが取れない場合、理由がわからず治療を長期化させてしまうこともあるのではないでしょうか。
マイクロスコープを用いることで暗い根管内に光が差し込み、破折線を確認できる事もあります。完全に破折している場合には動く破折歯を動画で確認していただく事もできます。
外科的歯内療法
病変が大きい場合や、病変が成立してから長い年月が経ってしまうと、根管の外にまで感染が及んでしまうことがあります。顕微鏡で治療したとしても、根の外まで治療することができないので直すことができません。そういった場合には、顎の骨を削った上で直接外から根の先を確認することができます。顕微鏡を使用すると成功率が高くなるとの報告もあり、実に9割以上の病気に対して改善が見込めます。(歯根破折などの抜歯適応となる状態を除く)顕微鏡を用いた根管治療でも治らない場合は、抜歯か外科的歯内療法を選択して頂くことがあります。
パーフォレーションリペア
深い虫歯や医療行為が要因になり、本来の根管とは異なる部位に穴が開いてしまうことを「パーフォレーション」と呼びます。そもそも肉眼でパーフォレーションを見つけることは困難で、穴を見つけることができなければ処置を行なうことができません。適切な処置を行ない、特別なセメント材料で穴を封鎖できれば、本来は抜歯になってしまう歯でも保存することができます。
コア除去
根管治療で根の先を触る前に、古い充填物や金属の土台を除去する必要がありますが、元々の残りの歯が少ないと、土台を外すときに治療予定の歯が割れてしまったりパーフォレーションを引き起こしてしまったりする可能性があります。顕微鏡を用いながら旧修復物を除去することで、事前にトラブルを避けながら処置を進めることができるので、より安全で確実な治療を提供することが可能となります。
自費マイクロエンドの流れ
通常の保険診療での根管治療の成功率は大きく見積もっても6割未満(根管処置歯における根尖部 X 線透過像の発現率( 2005.9 ~ 2006.12 東京医科歯科大学)と言われています。根尖病変の原因は歯の中に細菌感染が生じることです。顕微鏡を用いて治療を行う際にはラバーダム(後述)や完全滅菌された器具を用いて限りなく無菌的に近い処置を行なうことで、保険診療よりも高い成功率が得られます。
しかしここで注意しなければならないのは、根尖病変が治ることと、歯が長持ちするということはイコールではないということです。実際の歯の予後には、根管の汚染具合のみならず残存歯質量・破折のリスク・歯冠歯根比・歯周組織の状態に強く影響を受けます。
自費の根管治療をご選択頂く際には、費用・期間対効果を判断したうえで有益となる場合にご提案いたします。
以下は実際のマイクロエンドの流れとなります。症例によって多少異なりますが、当院ではマイクロエンドを行う際にはすべての患者様に決められた手順で確実な処置をご提供させて頂いています。
隔壁作成
虫歯が大きく、元々の土台が大きすぎる場合には残存歯質が少ないため、ラバーダム(後述)をかけられないことがあります。治療中の歯質の補強、薬液の誤飲防止、感染物の侵入を防ぐために歯の周りにレジンなどで壁を作ります。
根管治療後には被せ物をして歯を補強し、機能面・審美面を改善させる必要がありますが、最終的な被せ物の治療を成功させるため、歯を骨の中から引っ張り出す、部分矯正などの処置が必要になることがあります。
ラバーダム防湿
ラバーダムとはゴムでできたマスクのようなものです。
根管治療中一番の障壁となるのが口腔内の唾液の存在です。唾液1mlには200種類以上の細菌が数億体いるとも言われています。根管内に病巣を作る原因も細菌であるため、治療の成功にはラバーダム防湿によって唾液を根管内に入れないようにする必要があります。また、薬品が口腔内に漏れるのを防いだり、術者が治療しやすくなるため、結果的に治療期間が短くて済む等のメリットがあります。
根管探索・根管形成
根管治療でまず大切なのはどこに根管があるのかを探索することです。当院では根管治療を行うすべての患者様にCTを取らせて頂き、顕微鏡と併用することで、肉眼では見つけられないような細い根管も見つけ出すことができます。
見つけた根管を太く拡大していくことで、根管内に潜む細菌を除去するとともに、根管洗浄の効率を高めることができます。
根管洗浄
根管治療の目的は、根管形成と根管洗浄で根管内の細菌を極力減らすことです。根管形成のみでは複雑な根の形に対応しきれません。17%EDTA溶液・3%次亜塩素酸ナトリウム、そして超音波洗浄を用いることで器具の届かない細かいところからも細菌数を減らすことができます。
洗浄を繰り返して根管内の細菌を可能な限り減らした後に、根管充填を行います。
根管充填
除去しきれなかった細菌を封印して不活性化させるため、また根管内への口腔内細菌が侵入を防ぐために根管の封鎖を行います。
根管充填前に最後の根管洗浄を行った後、滅菌されたペーパーポイントにて根管を乾燥させて準備を整えます。
根管の形態や症状に応じて、より適した根管充填の方法をご提案いたします。
再治療を繰り返した歯は、根管が非常に太くなってしまう場合があるので、より封鎖性が高いMTAセメントを用いて根管充填を行うことがあります。MTAセメントは生体への親和性が非常に高く様々な症例に応用できますが、除去が困難なため、適応には細心の注意を払っております。
根管治療の料金表
自費の場合
保険診療の場合
マイクロエンドQ&A
Q.顕微鏡を使ってどんな歯も残せるのか
A.顕微鏡の最大の役割は「見えないものが見えるようになる」ことです。
拡大された視野の下、根管治療を繰り返しても症状が改善しない原因を探ることができます。
原因が歯の破折等であれば、残念ながらその歯を残すことはできませんが、原因がわからずに無駄な治療を繰り返すリスクを避けられるため、結果的に患者様に貢献できると考えております。
Q.治療回数や期間はどのくらいか
A.自費のマイクロエンドの場合には1回1時間、しっかりとお時間を取って治療にあたります。
早ければ1本の歯あたり2回の診療で済むため、保険診療での根管治療よりも治療期間が短くなることが多いです。ただし、元々保存困難な歯に対して処置を行なう際には、そもそもが難易度の高い治療になるため、患者様とご相談させて頂いた上で、何回かに分けて治療を行うこともあります。
Q.もしもマイクロエンドをしても治らなかったら?
A.残念ながらマイクロエンドを行ってもすべての歯を保存することはできません。
元々の歯が割れていたり、マイクロエンド後にご症状が消えなかったりする場合には抜歯の適応となります。ただ、病変の位置や病巣の大きさによっては、外科的な根管治療が適応になることもありますので、再度顕微鏡を用いて歯を残すチャンスを得られることがあります。詳しくは担当医にご相談ください。
Q.実際の治療の様子を見ることができるか
A.治療の途中経過を動画で撮影することができるので、ご希望があれば治療の様子をお見せすることもできます。
歯の破折や大きな病変がある場合にはこちらからも積極的に画像をお見せし、情報共有を図りたいと考えております。